大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和39年(行コ)3号 判決 1964年6月10日

控訴人

福地新一

代理人

神代宗衛

被控訴人

長崎県知事

佐藤勝也

代理人

安田幹太

安田弘

主文

原判決を取消す。

本件を長崎地方裁判所に差戻す。

事実

控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。当事者双方の事実上の主張は原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

理由

控訴人の本件訴の適否について判断する。

控訴人は福江市北町六八〇番地の二八宅地二四四坪四合、同所六八〇番地の三八宅地一七七坪合計四二一坪四合を所有していたところ被控訴人は福江都市計画事業火災複興土地区画整理事業の施行者として、控訴人に対し昭和三八年一月三〇日付で、右二筆についての仮換地を一八街区二一画地三五五坪とする旨の仮換地指定処分をし同日その旨を控訴人に通知したこと、控訴人は右仮換地指定処分を不服として同年三月二七日建設大臣に対し審査請求をしたが、今日に至るまで裁決がないことは当事者間に争がなく、控訴人が昭和三九年一月二四日右仮換地指定処分の取消を求めて本訴に提起したことは本件記録により明かである。

ところで行政事件訴訟法第一四条によると、取消訴訟は処分又は裁決があつたことを知つた日から三ケ月以内に提起しなければならないが、(同条第一項)その期間は処分又は裁決につき審査請求をすることができる場合において審査請求があつたときは、その審査請求をした者については、これに対する裁決があつたことを知つた日から起算されるもので、(同条第四項)その趣旨とするところは、処分について審査請求等適法な手続をもつて行政上の救済を求めている限り、審査請求前置が強制されている場合と、本件仮換地指定処分のごとく審査請求前置制をとつていない場合とを区別することなく、その結末をまたないで、処分を基準として出訴期間を定め、その期間内の出訴を強要し、あるいはその期間経過により形式的確定力を生ぜしめるのは不合理であるから、右の審査請求等に対する裁決のあるまでは出訴期間は進行せず、その裁決があつたことを知つた日から右の三ケ月の期間を起算するものと解せられる。(この点につき原審は審査請求前置制をとる行政処分についてのみ当該行政処分に対し審査請求をした場合は、これに対する裁決があるまでは出訴期間は進行しないが、本件のように審査請求前置制をとつていない行政処分に対し審査請求をした場合は、処分を基準として出訴期間が進行するとの見解をとつているが、先に引用した同条第四項によるも、単に「審査請求をすることができる場合」と規定するのみで、かように取扱を異にする明文上の根拠がないのみならず、もし原審のように解するならば、本件のような場合には行政処分に対して適法な審査請求がなされても、取消訴訟の出訴期間は処分があつたことを知つた日から三ケ月後には当然に経過し、以後出訴はできなくなるが右審査請求に対する裁決があつた場合は、裁決の日から新たに出訴期間の進行が開始するという極めて不合理な結論に到達せざるをえないから、右のような見解は採るをえない。)

而して仮換地指定処分は審査請求前置制をとつていない行政処分であるから、これに対しては審査請求もできるし、直ちに処分取消の訴を提起することもできるものであるところ、控訴人は右仮換地指定処分があつたことを知つた日の翌日から起算して六〇日以内に適法な審査請求をしているのであるから、これにより右審査請求に対する裁決があるまでは出訴期間は進行せず、従つて右裁決が末だなされていない本件については、控訴人は何時でも処分庁である被控訴人を被告として、本件仮換地指定処分の取消訴訟を提起しうるものである。

よつて、控訴人の本訴を出訴期間経過による不適法な訴として却下した原判決は不当であるから、これを取消し、民事訴訟法第三八八条に従い本件を原審に差戻すこととして、主文のとおり判決する。(裁判長裁判官岩永金次郎 裁判官岩崎光次 小川冝夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例